PPPDは脳の地図のズレが原因?2024年の研究が示す「空間認知」の問題
「検査では異常なし」でも続く、ふらつきや不安定感
「検査では異常がないのに、ずっとふらつく」「地に足がつかない感じが続く」
そんな慢性的なめまいを感じている人はいませんか?
このような症状は、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD:Persistent Postural-Perceptual Dizziness) と呼ばれます。PPPDは内耳や脳に明らかな異常が見つからない「機能性めまい」の代表的な病気です。
近年の研究で、このPPPDには「脳の空間認知のズレ(脳の地図機能のエラー)」が関係している可能性が指摘されています。
「脳の地図機能」がうまく働いていない?
2024年にMDPI誌Brain Sciencesに掲載された研究(Functional Dizziness as a Spatial Cognitive Dysfunction)では、このPPPDの原因の一つとして「脳の空間認知機能(脳の地図づくりの力)」の問題が関係している可能性が指摘されました。
人間の脳は、周囲の環境を“地図”のように記憶し、自身の現在位置を把握し、目標地点へのルートや空間内の物体との関係を理解したり、「自分がどこにいるのか」「どちらを向いているのか」を常に把握する能力やがあります。ところが、PPPDの方は、この脳の地図づくりの機能が狂い、自分の位置や姿勢の感覚がずれて感じられてしまう可能性があるのです。

これらには、主に2つの神経経路が関わっています。まず自分中心とした場合は、空間認識に関わる頭頂葉が使われ、物や他者の位置関係には海馬や内側側頭葉と言った記憶に関わる部分が使われます。視空間認識と言うのは、目から入ってきた物の形や大きさ、位置などの情報からその空間を把握する能力の事です。これは、視覚から得た情報をもとに頭頂連合野で情報が統合されます。
研究で分かったこと
研究では、PPPDの患者さんと、前庭の働きに異常がある方(良性発作性頭位めまい症・メニエール病・前庭神経炎など)、そして健康な方を比べました。すると「バーチャル(仮想空間)上で、隠れた目的地点を探すナビゲーション課題(vMWM)」や「視空間認識と計画実行機能をみるTrail Making Test(A/B)、ロンドン塔課題」で、PPPDの患者さん、他のグループと比べて成績が明らかに低いことが分かりました。
特に、vMWMでは
- 目標が見えないとき
- 毎回違う場所からスタートするとき
に、より混乱しやすい傾向がありました。これは、脳の中で「空間地図(どこに何があるか)」を正しく描けていないことを意味します。
脳の中の「地図づくり」が乱れるとどうなる?
脳の地図づくりを支えているのは、記憶に関わる海馬や内側側頭葉、自分の体や自分を中心とした空間認識に関わる頭頂葉、視覚情報からその空間を把握する頭頂連合野などの部分です。これらは、
- 自分の身体の位置を感じる(体性感覚)
- 目から入る情報(視覚)
- 内耳の平衡感覚(前庭感覚)
などの情報を、頭頂葉の後部(頭頂連合野)で統合して「自分が空間の中でどこにいるか」を認識しています。
しかし、この機能のバランスが崩れると、
- 頭が重い、ふわふわする(体性感覚)
- 周囲が歪んで見える(視覚)
- 自分が動いているような感じがする(前庭感覚)
といった感覚になってしまいます。
まるで、脳の中のGPSが、自分の「向いている方向」や「動いている方向」を見失っているような状態です。
PPPDの対策に「空間認知リハビリと脳の再学習」
この研究から分かることは、PPPDは「前庭系の問題」だけでなく、脳の「空間認識のネットワーク」の働きが狂っていることが関係している可能性があるということです。
めまいを「単純な平衡感覚の問題」としてだけでなく、「脳の情報処理の問題」として考えることで、より根本的な対策が見えてきます。つまり、空間認知機能を改善するための取り組みが効果的な可能性があるということです。
空間認知リハビリ・脳の再学習
病院でのPPPDの治療には、
- 前庭系のリハビリ(バランス訓練)
- ストレスや不安へのアプローチ(認知行動療法・心理療法)
- 薬物療法(SSRIなど)
が行われますが、そこに 「脳の地図機能を改善する空間認知のリハビリ」 を加えることが、慢性的なふらつきの改善を高める可能性があります。
「ロンドン塔課題」
この研究の中で、空間ナビゲーション(vMWM)以外にも、前庭系のめまいと比べて、機能が低下していたロンドン塔課題(Tower of London Test)を紹介します。これはロンドン塔課題は、視空間認知(頭頂葉)や計画実行機能(前頭葉)をチェックするためのテストです。
【やり方】
上の図の球を一つずつ動かして、下の図の形にします。上に球が乗っている場合、下の球は動かせません。最小の移動回数で完成させる方法を頭の中でイメージしてください。答えは、記事の最下部に記載します。


まとめ:PPPDは「脳の地図のズレ」にも注意
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)は、前庭系のバランスだけでなく、脳の中で自分とその周囲の空間をどう感じているかに関係していることが示されています。重要なことは、
- PPPDでは「脳の地図づくり」がうまく働いていない
- 空間認識のズレが“ふわふわ感”や“不安定感”を生む
- 空間認知トレーニングやリハビリが回復の手助けになる可能性がある
【ロンドン塔課題の最小の移動回数:4回】
参考文献
Functional Dizziness as a Spatial Cognitive Dysfunction:DOI, 10.3390/brainsci14010016
この記事を書いた人
中央林間カイロプラクティックオフィス 興津 尚之
カイロプラクター
日本カイロプラクティック徒手医学会 正会員
マニュアルメディスン研究会 正会員
公益財団法人 日本スポーツ協会 認定スポーツプログラマー
Bachelor of Engineering(工学)

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